社説ウオッチング:元日の論調 「解散」分かれた主張

社説ウオッチング:元日の論調 「解散」分かれた主張



◇「ねじれ解消、選挙で」−−毎日・朝日

 ◇「急ぐな」−−読売

 今年はどんな1年になるのか。そして私たちは、どう対処していったらよいのか。元日の各紙社説には、そんな意味が込められている。報道機関、言論機関である新聞社の読者に向けた年頭のメッセージでもある。

 総じていえば、今年は日本を取り巻く国際情勢認識に関しては各紙共通していたと思われる。イラク政策の行き詰まりやドル安に象徴される米国の混迷。一方で中国やロシアなどが台頭し、世界は米国一強時代から多極化へ向かいつつあるという認識だ。

 だが、その処方せんとなると、それぞれ異なる。とりわけ現下の国内政治課題である衆参ねじれ国会にどう対応するのか、年内の可能性が高いといわれる衆院解散・総選挙をどう位置づけるかは、くっきりとスタンスが分かれた。

 ◇状況認識は共通

 「身捨つるほどの 祖国はありや」−−。

 毎日は社説の冒頭で団塊世代のヒーローの一人だった寺山修司の短歌を引き、あえて「祖国」という言葉を用いて「祖国を実感できる年に」と書いた。

 広がる衰退気分。年金の先行きさえ定かでない。防衛次官汚職や食品偽装など官も民も責任感が欠如している。多くの社説が指摘するところだ。

 そんな中、毎日が掲げたキーワードが「公」。公共心や公共への責任感の回復といった意味だ。それは無論、戦前の国家優先主義の復活ではない。平等な立場でオープンな議論をたたかわせながら血肉になっていくような「新しい公」を育てたい。そんな発想が大切だという提案である。

 そうした議論が最も必要なはずの国会は、衆参のねじれで確かに心もとない。しかし、その解消策は自民党民主党の大連立ではない。ねじれの解消も民意=選挙にゆだねるべきだと主張するとともに、ねじれの緊張関係の中で合意を目指して議論を練り上げていくのが、政治における「公」の回復だ−−と毎日は指摘した。

 国内政治問題にほぼ特化したのが朝日社説だ。

 今年は1988年、リクルート事件を機に政治改革の必要性が叫ばれ始めて20年になる。朝日は次の総選挙で民主党が勝てば衆参のねじれは消え、政治改革の狙いだった政権交代も実現すると指摘。逆に民主党が負けたら「参院の多数を振りかざさず、謙虚に政策調整に応じる」といったルールの確立を求めている。

 「民主党敗北なら国会対応見直し」は毎日も昨年末、「視点」欄で提案した方法の一つだ。毎日、朝日は選挙前の自民と民主の大連立に反対するとともに、できるだけ早く衆院解散・総選挙を行うべきだとの主張でも一致している。

 これに正反対なのが読売だ。昨夏、読売は大連立を社説で提唱。読売新聞グループ本社会長兼主筆渡辺恒雄氏が大連立構想の仕掛け人だったのも周知の通りだ。

 ◇日経・東京はテーマ絞る

 読売元日社説は多極化世界に変動する中、機動的に日本外交を展開するには国内政治の安定が前提になると強調。「大連立」の文字はなかったが、福田政権に対して「野党の問責決議を恐れる理由は、まったくない」としたうえで、「衆院の任期は、あと2年近くある。解散・総選挙を急ぐ必要はない」と主張した。変革より安定が大事ということなのかもしれない。

 産経は論説委員長名の論文を掲載した。日米関係の重要性を強調する点は読売と同じだが、福田康夫首相に対しては「世界の潮流に沿ったものであろうか。背を向けたものではないか」と厳しい。

 論文は「つつましい方丈に無限の宇宙を見るような日本古来の節度ある生き方を、いまこそよみがえらせ、その知恵と哲学を世界に伝えたい」と書く。毎日の「新しい公」との違いは明白だ。産経は保守回帰路線だった安倍晋三前首相の方が望ましかったのだと思われる。

 このほか、日経は地球温暖化、東京は格差=貧困層の増加問題に絞り込んで元日社説を展開した。

 ◇グローバル化の影

 海外にも目を向けてみる。

 欧米主要紙は元日を特別重視することなく、ほとんど通常の社説を掲載。これに対し、8月に北京五輪が開かれる中国の人民日報は「新しい年。五輪の聖火が東方に輝き、中華民族百年の五輪の夢が現実となる」と記す。高揚した様子が伝わってくるのは確かだ。

 今年、建国60周年を迎える韓国の有力紙・朝鮮日報は、先の大統領選を踏まえ、「肯定の炎を」と前向きな姿勢を国民に訴え、「国の存亡は教育にかかる」と説く。日中、日韓関係は今、再構築に向かっている。ともに再び偏狭なナショナリズムに陥らない1年に、と願わずにはいられない。

 もう一度、寺山修司の話を。1973年、寺山は雑誌のインタビューでこうも語っている。

 「国家というのは、すでにもうイデオロギーじゃなく行政管理上の手続きとして存在してるに過ぎないんですね。だから、科学がもっと発展して、コンピューターが管理するようになったら、人間は国というものに所属する必要がなくなるだろう、というのが、ぼくの考えなんです」(文芸春秋刊「面白半分BEST随舌選」所収)

 没後25年。テロや核拡散、無秩序な経済活動……。グローバル化の「影」が、このような形で押し寄せる時代になることを寺山は予想していただろうか。【論説委員与良正男

毎日新聞 2008年1月6日 東京朝刊